『終着点は重要じゃない。旅の途中でどれだけ楽しいことをやり遂げているかが大事なんだ。』
スティーブ・ジョブズ
投資を始めるようになってから、未知のモノに出会うという事が面白くなってきた。
まだまだ世の中には自分の知らない事がたくさんあり、それを体験するだけでも大きな財産になると感じるようになった。
ある時、時間ができたので、年末に一人車でぶらりと愛媛と高知を巡った。
目的はゲストハウスのドミトリーに泊まること。
ゲストハウス・ドミトリーと聞くと、普通の人からすると、部屋が汚いかもしれない。見知らぬ人間と同じ部屋で寝るのはちょっと怖い。と思う人もいるだろう。
自分もそう思っていた。
行く前は少し抵抗感があったのだが、今思うとそれは単なる思い過ごしだった。実際、まったく何も問題なかったからだ。
日本のゲストハウスは、部屋は清潔感もあるし、会う人すべて、良い人達だった。
どうしてもプライバシーを保ちたい人は、予約さえ取れれば、個室にできる所もあったりする。
最初に道後に行ったのだが、生憎ここで泊まりたかったゲストハウスは空いておらず、残念ながら普通のホテルに泊まる。普通だ。
次の日は、道後から南下していき愛媛県内子町という所にいく。
わりと山奥の方にある町で、昔は、和紙と蝋燭で栄えたという古い町並みを今でも残している地域だ。
内子座という歴史ある芝居小屋があり、今でも普通に使われているそうだ。他にも、ストリートファイターⅡのサガットステージに出てきそうな、大きな涅槃像が寺にあったり、中々、趣のある町だった。
泊まったゲストハウスは「内子晴れ」。築170年の古民家をリノベーションした場所だ。
関東に住んでいたオーナーが、内子町に惹かれ、クラウドファンディングで資金を調達して開業したらしい。外観はレトロな趣がある。
内観もおしゃれで、すっきりと清潔感がある。
今まで泊まった事がないようなす宿泊施設だ。
簡単なバーが併設されており座る部分は座敷になっている。
座敷には本やコタツなども置いてあり、宿泊客がリラックスして談笑できるスペースになっている。
ドミトリーの部分も、自分が泊まった部屋は広々としており、清潔感もあった。
オーナーも人の好い雰囲気の方で、気軽に会話することが出来た。
「どこか食べるところは空いますか?」と尋ねると
「いやー、年末ですからね。今日はどこも空いてないと思いますよー。あっでもあそこなら空いてるかな?」
といって、近くのドイツ人が経営しているというお店に電話してくれた。
「やっぱり、お店は予約で空いてないみたいです」
と申し訳なさそうに、口を開く。
たしか少し離れた場所に、コンビニはあった気がするので、そこで何か買おうと思っていると
「遅くなると思うんですが、ここ閉めたら、屋台のラーメン食べに行くんですけどよかったら一緒にいきます?」
と誘ってくれた。
あっ、面白そう。と思い、承諾した。
それまで時間を潰すことにした。
2階の部屋で荷物の整理をしたり、明日の行き先などを確認した。
その後、座敷に降りると、同じ宿泊客だという青年がいたので、彼と炬燵で喋ることになった。
彼は建築を専攻している福井の大学生だという。
愛媛の大洲市というところに、「赤煉瓦館」という明治34年に建てられた、当時としては珍しい外壁で、さらに赤煉瓦、しかも屋根には和瓦を葺くという和洋折衷な建造物があるのだが、それを見に来たそうだ。
彼と、色々な雑談をした。
面白かったのが、福井の方言だ。
「つるつるいっぱい」という言葉があるらしい。
まったく聞いたことがなかった言葉なので、意味を尋ねてみると、コップの中にある水などの液体が、こぼれそうでこぼれないギリギリのライン(表面張力)で保っている状態のことだそうだ。
そんな感じで、彼と話していると、8人ほどの若者が内子晴れに入ってきた。すごく賑やかで、楽しく談笑している。
耳から聞こえてくる話の内容から推測すると、おそらく、東京かどこか都会に出ていて、年末年始に内子町に帰ってきた若者たちだ。
家ではなく、ゲストハウスで集まって、酒宴を開き、最後にそこで寝るという実に楽しそうなイベントを堪能していた。
そんな感じで夜も更けて、たしか12時過ぎぐらいだった思う。オーナーに声をかけてもらい、福井の大学生も含めた三人で外に出た。
しばらくすると、黒い普通車がやってきた。見知らぬ男性二人が乗っている。オーナーさんと気軽に話している。おそらく地元の友人なのだろう。
車に乗せてもらい、内子町から大洲市というところまで車で乗っていった。15分か20分ぐらいは乗っていたと思う。
着いた場所をみて驚いた。
そこは市役所の前だったのだ。
その真ん前で、屋台の明かりが見える。
お店の名前は、福ちゃんラーメンという名前だった。切り盛りしているのは、何とおばあちゃんが一人。
えっ!今、年末でしかも深夜だよ。
ものすごい量の、食べ終えたあとのドンブリが置かれていた。
70杯ぐらいは出ていたのではないだろうか。
夜9時から深夜2時まで営業していて、雨の日ややっていないらしい。
たしか600円ぐらいだったと思う。
椅子とか机なんてものはなく、みんなどこで食べるかというと、
近くに地下道への入り口があり、そこがコの字になっているのだが、そこにドンブリを置いて食べるという何とも豪快なスタイルだった。
あっ、だから雨の日はやっていないのかと得心した。
味は、昔なつかしの中華そば。見知らぬ今日会ったばかりの人たちと横一列になって、地下道の入り口でラーメンをすする。寒い冬の夜に、温かいラーメンの汁を喉に流し込む。なんと贅沢の極みだろう。
あぁ、なんだこんな古き良き非日常も面白いなと思った。
今度また来るときがあれば、行けなかったドイツ料理屋さんで家庭料理を存分に堪能して、やっぱり深夜にはこの屋台に行って、見知らぬ人達と古き良きラーメンをすすって笑うのもなんだか乙な気がする。